これが最後の恋だから。

ありふれた恋だった。 互いに家庭があること以外。 これがきっと人生最後の恋。

2015年04月


会いたい、会いたくてしかたない。



会って何をするの?
会って何をしたいの。


話をしたい。
あなたと笑い合いたい。

笑った顔を見たい。

あたたかな陽射しの中、
あなたと手を繋ぎたい。




あなたが恋しい。






先週、会う約束があった。
けれども、会えなくなった。


私はその経緯に誠意がなく感じた。
腹が立った。


言い争いのような
メールの応酬が続いた。


でも、きりがないように思えた。
なにより、
いつまでも引きずりたくなかった。


だから私は彼に電話をした。


私たちは滅多に電話をしない。
さまざまに用心しているからだ。


だから、私は彼に電話をした。


呼び出し音がなる間、
私は何から伝えようと
ぐるぐる考えた。



怒りから伝えようか。
悲しかったことから伝えようか。

感情のままに伝えようか。
それとも、冷静に伝えようか。



数回の呼び出し音ののち、
彼が出た。



おはようございます
彼は言った。


おはようございます
私も言った。




そして。


私たちは同時に笑い出した。


おはようございます
と彼は笑いながら繰り返し、

おはようございます
と私も笑いながら繰り返した。



そのひとことは
その単なる挨拶は
いつもと変わらない私たちであり、

その声で私たちは居心地のよさを感じ、
思い出し、心地よくさせた。



何か言いたいことある?
と私は聞いた。


ない、と彼は端的に言った。


だから私も言いたいことがなくなった。



会いたかったんだよ、
と私は伝えた。


正直に言うよ
桜を見たかったの
昨年桜を見に行ったとき
来年は一緒には見られないかなって
思ったの
だから見たかったの


私は正直な気持ちを言った。



わかってたよ
桜を見たいんだろうなって
先週ならぎりぎりだ
良かったと思ってたんだよ


彼はそう言った。



そっか。
わかっていたんだ。


そして、
彼がわかってくれていることを
私もわかっていたことに気付いた。


じゃあ、来年見よう 
と私は言った。


彼は黙った。



約束はできない
桜は短いから

と彼は言った。




そっか。
そうなのか。


私は、そっと気付いた。


その冷静な言葉から
私は逆に気付いたのだ。



彼の来年には私がいることに。





うん、そうしよう。

来年もし時間が合ったら
桜を見に行こう。


来年もし時間が合わなかったら
再来年見に行こう。


桜はまた咲く。
私たちにもまた季節が巡る。



そう信じる。






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